9月10日、埼玉県の公立入試各校の選抜基準が発表されました。
例年なら夏休み前の7月初旬までには発表されていましたが、今年は新型コロナの影響で2か月ほど遅れての発表となりました。
選抜基準は、皆さんが志望校を決定し、今後の対策を立てていく上で重要な資料となります。
初めて見る人にとっては、やや分かりにくい点もあると思われますので、今号では、その見方をできるだけ平易に解説して行きます。
初めに選抜基準には何が記されているか、その全体象を見ておきましょう。
選抜基準は次の6つの項目で構成されています。
1 選抜の基本方針
2 選抜資料
3 一般募集
4 調査書の扱いの詳細
5 第2志望
6 その他
以上です。
では次に、項目ごとに解説します。
学力検査と調査書の記録とでは、どちらを重視するかなどが記されています。
たとえば「学力検査を重視して選抜する」、「学力検査と調査書に大きな差を設けずに選抜する」といった形です。
細かい内容に入る前に、まずその学校の基本方針を押さえておくのが理解のコツです。
選抜資料として何が用いられるかが記されています。
〇学力検査の扱い
〇調査書の扱い
〇その他の資料
学力検査と調査書が選抜資料となるのは全校共通ですが、学校によっては面接や実技検査が実施され、その場合、その他の資料のところに記されています。
〇学力検査の扱い
500点の学校・学科がほとんどですが、一部の学科(又はコース)では600点~800点となっている場合があります。傾斜配点と言って、理数科で数学・理科の点数を2倍にして700点としたり、外国語科で英語の点数を2倍にして600点としているケースがあるからです。
〇調査書の扱い
調査書の得点が何点になるかが記されています。得点は学校・学科により異なります。
調査書の得点は、次の3つの得点の合計点となります。
▽学習の記録の得点
▽特別活動の記録の得点
▽その他の項目の得点
順に見て行きます。
▽学習の記録の得点
1年~3年の9教科の評定のことです。
単純合計すれば「45×3=135点」となりますが、大半の学校・学科は180点、225点、あるいはそれ以上となっています。これは3年生の評定に重みを持たせているからです。
1~3年が「1:1:2」の学校であれば、ある教科で5だった人と4だった人の差は1点ではなく2点となります。
1年2年の評定は確定していますが、3年の評定はこれからの努力次第で上げられますので頑張ってください。
なお、評定は合計点だけが見られます。極端な話、仮に「1」がついた教科があっても、そのこと自体が問題にされることはありません。皆さんに必要なのは合計点を上げる努力です。
▽特別活動の記録の得点
▽その他の項目の得点
詳細については後述しますが、特別活動の記録とは、生徒会活動や部活動に関する得点、その他の項目の得点とは、資格取得や出欠などに関する得点です。
基本的にこれらの得点が学習の記録の得点を上回ることはありませんが、体育系の学科・コースなどでは特別活動の記録が高得点になっているケースがあります。
これらの得点は3年9月の時点ではほぼ確定しているものなので、繰り返しになりますが、3年の各教科の評定を上げるための努力をしてください。
選抜の手順・方法が記されています。
選抜は2段階または3段階で行われます。それぞれ第一次選抜、第二次選抜、第三次選抜と呼ばれます。
▽第一次選抜
第一次選抜では合格者の60%~80%を決定します。割合は学校・学科(コース)ごとに異なります。
選抜に用いられるのは前述のとおり①学力検査、②調査書、③その他の得点の合計点です。内訳は関係ありません。あくまでも合計点です。
ここで皆さんが疑問を持つと思われるのは、「2選抜資料」の欄の調査書得点と、第一次選抜の欄の調査書得点が異なっている場合があることです。
参考例をあげて説明します。
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「2選抜資料」の欄
学力検査500点
調査書 240点
「第一次選抜」の欄
学力検査500点
調査書 336点
合計 836点
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選抜基準例(大宮高校)
学力検査500点は変わりませんが、調査書が240点から336点へと1・4倍に増えています。
1・4を係数、それを掛けて得られた336点を換算点と呼びます。
なぜこのような操作をするかというと、これによって「学力検査:調査書」の割合が、「6:4」になるからです。
第一次選抜では「学力検査:調査書」の得点比を「6:4」か「5:5」か「4:6」のいずれかにしなければならない決まりがあります。ですから、このケースでは「6:4」でやや学力検査に重きを置いた選抜をするために係数1・4を掛け、換算点336点を選抜に用いるのです。
▽第二次選抜
第二次選抜では合格者の20%~40%程度を決定します。割合は学校・学科(コース)ごとに異なります。
係数を用いて換算点を導くのは第一次選抜同様ですが、「学力検査:調査書」の得点比は、「7:3」~「3:7」の間と決められています。
「1選抜の基本方針」で「学力検査重視」としている学校・学科は、第二次選抜では「学力検査:調査書」の得点比を「7:3」とし、「調査書重視」としている学校・学科は「3:7」とするなど、その学校・学科の基本方針がより強く現れるのが第二次選抜と言えるでしょう。
▽第三次選抜
第三次選抜では、残り数%~十数%の合格者を決定します。
第二次選抜までで合格者を100%決定してしまう学校は第三次選抜を行いません。
第一次選抜、第二次選抜まででは合格者に入れなかった人にもチャンスがありますから、いわば「復活戦」です。
「復活戦」の対象になるのは多くの場合、「第一次選抜における合計得点の一定の順位の者」です。第二次選抜としている学校・学科もあります。
選抜の方法は、多くの場合、「特別活動の記録」や「その他の項目」の得点です。
第一次選抜や第二次選抜は学力検査や調査書なの合計得点順ですが、それと同じ方法で合格者を決めるのでは第三次選抜を行う意味がありません。そこで、一定以上の点数(=順位)に達していれば全員同等とみなし、「特別活動の記録」などの得点で合格者を決めるのです。部活動や生徒会活動で顕著な活躍をしていればここで合格を勝ち取ることも可能ですが、残り枠数パーセントに賭けるより、学力検査得点を上げて第一次・第二次での合格を目指すほうが確実です。
調査書に記載されるさまざまな事項がどのように得点化されるかが記されています。
具体的な点数までは示されていませんが、どのような活動が得点になるかまでは分かります。
〇学級活動・生徒会活動
生徒会長のみ評価する(得点を与える)学校がある一方、副会長以下その他生徒会役員や、学級委員に至るまで評価する学校があるなど、学校ごとに評価の基準はさまざまです。
〇部活動
県大会出場(出展・出品)以上を評価する学校が多いですが、郡市大会入賞レベルまで評価する学校もあります。レギュラーのみ評価する学校とレギュラー以外でも評価する学校があります。また、部長や副部長など役職に就いていたことを評価する学校もあります。
今年度は調査書に記載された中学3年生の部活動等の扱いは、大会等のほとんどが中止となったことを踏まえ、1・2年生の事項のみが評価されます。この点を心配している人がいるかもしれませんが、県内すべての受験生に3年生の記録がありませんから、その点では同条件です。(※)
〇資格取得等
英語検定などの資格取得状況を評価します。
英語検定では2級以上のみ評価する学校がある一方、4級でも評価する学校もあります。
囲碁・将棋、珠算の段位も評価される場合があります。また、学校の部活とは別に個人的に出場・出品したコンテストなども評価対象になる場合があります。
中学校の先生は皆さんの個人的活動のすべてを把握しているわけではありません。中学校側からの調査もあるかとは思いますが、これは評価対象にならないだろうと決めつけず、進んで自己申告するようにしましょう。
〇出欠の記録
出席状況を評価する学校もあります。
この欄がない学校は、出欠は一切問題にしないということです。
この欄に何らかの記載がある学校の場合、「特に良好な場合、得点を与える」などと記しています。特に良好とは、3年間皆勤とか1年間皆勤などを指しているものと考えられます。
欠席が多い人は心配になりますが、良好な場合に得点を与えると書いてありますが、良くない場合に減点するとは書いてありません。加点だけがあって減点はないのです。
同一学校内に複数の学科がある場合、第2志望が認められる場合があります。
相互に認められる場合と、一方からのみ認められる場合があります。
一例として芸術総合高校を見てみます。映像は映像芸術、舞台は舞台芸術です。
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美術→映像・舞台
音楽→映像・舞台
映像←→舞台
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映像志望者は舞台を第二志望とすることができ、舞台志望者は映像を第二志望とすることができます。つまり、相互に認められます。美術又は音楽志望者は映像・舞台を第二希望とすることができますが、映像または舞台志望者が美術・音楽を第二希望とすることはできません。いわば一方通行です。相互に認めるケースが多いのですが、このような例もあります。
なお、第二志望の有無はあらかじめ入学願書に記入することになっているので、志望していない学科に回されることはありません。
この欄は「なし」となっている学校が多いですが、第三次選抜まで行う学校の中に、「通学時間、通学距離を資料とする」と記されている場合があります。同点で甲乙つけ難い場合に、地元や近隣の中学校出身者の方がやや有利という程度に考えておきましょう。
以上、選抜基準の見方について順を追って解説してきました。
疑問点がある方は編集部あて遠慮なくご質問をお寄せください(宛先yag-shingaku@yomiuri-ag.co.jp)。本紙及びWEBサイトの「Q&A」コーナーで回答することもあります。
9月10日の各校選抜基準の発表を以って、公立入試に必要な情報はほぼ出揃いました。
残っているのは、10月と12月に実施される予定の進路希望調査の結果発表(各校の志望倍率など)くらいでしょう。
今後は志望校選びを進めると共に、実力アップに全力を傾けてください。
学校ごとに選抜資料は異なりますが、すべてに共通するのは学力検査得点と調査書得点が用いられることです。
とりわけ重要なのは学力検査得点です。
調査書得点については学校ごとに評価の仕方や得点が異なりますが、学力検査得点については、一部傾斜配点を採る学校・学科を除けばすべて500点と大きな割合を占め、これが合否を決するもっとも重要な要素となります。
そして、皆さんに強く意識してもらいたいのは、学力検査得点だけが今後の努力で上げられる可能性があるのだということです。
1・2年生の間ならともかく、3年の今の段階から調査書得点を大幅に上げることはほぼ不可能です。上げられたとしてもほんの僅かです。
それに対し、学力検査得点の方は、今から頑張ればいくらでも上げられます。
学力検査得点を上げるために全力を傾けましょう。
※注 実技検査を実施する学校・学科の場合、実技の得点が学力検査得点よりも重視されることがあります。
3年の今の段階から調査書得点を上げるのはほぼ不可能と言いましたが、実は上げられるものがあります。
それは学習の記録の評定です。分かりやすく言うと通知表の成績です。
2の教科を3に、3の教科を4に、というようにワンランク上げれば、2点ないし3点の得点アップにつながる可能性があります。
授業に取り組む姿勢をいま一度見直し、定期テスト対策をしっかりやるなどして評定アップを目指しましょう。授業の土台の上に受験勉強があるわけですから、その努力は無駄にはなりません。
今回、できるだけ分かりやすく選抜基準の見方を解説したつもりですが、文章では伝えにくい部分もあります。
各校が実施する説明会に参加すれば、入試に関するより具体的な説明があるはずです。また説明会後の個別相談などでも聞くことができるでしょう。
疑問点が解消されたからといって、それだけで合格に近づくわけではありませんが、不安を持ちながら勉強を続けるのは良くありません。
志望校の説明会には必ず参加しましょう。
よみうり進学メディア9月記事中で、部活動の調査書の記録につきまして、
「今年度は3年生になってからの各種大会等が中止になっているので、調査書に記載されるのは2年生までの記録となります。」と記させていただきましたが、
正しくは、
「今年度は調査書に記載された部活動等の扱いは、3年生の大会等のほとんどが中止となったことを踏まえ、全ての高等学校で1・2年生の事項のみが評価されます。」
となります。ここに訂正させていただきます。