データから見た各教科 各問題の難易度
今回は、データから見た「難しかった問題と易しかった問題」についてお話をします。
皆さんは、教科の平均点が高ければ易しく、低ければ難しいと考えると思います。もちろん、その考え方も間違ってはいません。しかし、今回は少し違った角度から問題の難易度を見て行くことにします。
参考にしたデータは、埼玉県教育委員会が試験実施後に公表している各教科の分析結果です。埼玉県立総合教育センターのサイトに掲載されていますから、詳しく知りたい人は、ぜひ元のデータを当たってみてください。
この資料には、全教科全小問について、「正答率」、「一部正答率」、「誤答率」、「無答率」、「通過率」が示されています。「正答率」や「一部正答率」が高ければ、その問題は受験生にとって「易しかった問題」とみなすことができます。逆に、「誤答率」や「無答率」が高ければ、その問題は「難しかった問題」とみなすことができます。
なお、「無答率」は答えなかった人、いわゆる白紙答案の割合です。
「通過率」は耳慣れない用語ですが、部分点をとった人の数や、その人たちがとった点数を加味した数字ですが、話が専門的になるので、ここではあまり触れません。「通過率」が高ければ「易しかった問題」、低ければ「難しかった問題」と考えることにしましょう。
皆さんは過去問学習の真っ最中かと思いますが、出来ない問題があったとしても、その問題の正答率が極端に低かったとしたら、それほど落胆する必要はありません。反対に、正答率が非常に高い問題を間違った場合は、大急ぎで基本知識の復習をしなければなりません。
では、各教科について前年度(2020年度)のデータをもとに、何が「易しかった問題」で、何が「難しかった問題」であったかを検証してみることにしましょう。
長文読解問題が2問ありますが、大問1(小説の読解)は5題ある小問のうち2題は通過率が70%を超えています。一方、大問3(論説文の読解)では通過率70%を超えている小問はありません。また、通過率14.9%の難問もありました。例年、大問3の方が大問1よりも点数が取りにくい傾向が見られるので、論説文の読解に力を入れましょう。
大問2の漢字の読みでは「眺望」の正答率が56.7%とやや低めでした。「がんぼう」や「とうぼう」といった誤答が見られたようですが、「兆」や「挑」から「ちょうぼう」を導くこともできたはずです。問4(3)は手紙の書き方で、頭語「拝啓」に対し、結語「敬具」を答えさせる問題でしたが正答率は27.5%にとどまりました。基本的知識が定着していないことを示しています。
大問3の古文では、歴史的仮名遣いを現代仮名遣いに直す問題が毎年必ず出題されています。しかし正答率は53.0%にとどまっており、準備不足がうかがえます。
大問5の作文は、正答率こそ10.9%と高くありませんでしたが、一部正答率は83.5%に達しており、まったく点数が取れなかった人は5.5%に過ぎません。昨年から配点が16点から12点に減じられ、今年も同様と予想されますが、引き続き大量得点のチャンスがある問題と言えるでしょう。
学力検査問題の平均点が前年の41.7点から一気に25点上昇し、過去最高の66.7点に達しました。
平均点急上昇の要因はいくつか考えられますが、大問1の配点と問題数が増えたことが大きく影響したようです。
大問1は計算問題はじめ基礎基本問題で構成されていますが全問題数25問のうち18問を占めており、配点も65点と高くなっています。18問中10問は通過率80%を超える平易な問題ですから、ここで確実に点数を積みあげることが重要です。
学校選択問題の平均点は導入初年度が43.2点、2年目が43.7点とかなり低めでしたが、3年目が53.5点、4年目となる2020年度が55.2点と、上昇傾向が見られます。極端に難しい問題が減ったことと、受験生側の対策が進んだ結果だと考えられます。
学校選択問題でもっとも難しかったと言えるのが空間図形を扱った大問5(3)で、正答率は何と0.6%でした。1000人中わずか6人ということです。ここまで低いと出来なかった人がほとんどということですから、合否にはほぼ影響がなかったと言えます。しかしながら、決して教科書レベルを超えた問題というわけではないので、トップレベルの高校を目指す受験生はこれらの問題を攻略できるだけの実力をつけてもらいたいと思います。
平均点は54.6点で、前年の59.3点からやや下がりました。
小問ごとに見て行くと地理からの出題である大問1・2では通過率50%を超える問題が10問中8問ありましたが、歴史からの出題である大問3・4では10問中3問しかありません。特に、近現代史を扱った大問4では通過率50%を超えた問題は1問もなく、20%台と30%台がそれぞれ2問という状況でした。社会科で高得点を目指すには歴史、その中でも明治時代から現代までを扱った大問4を攻略すべきだということが分かります。
通過率がもっとも低かったのは公民からの出題である大問5の問2で18.6%でした。記号選択ですが「正しいものをすべて選ぶ」という形式だったため、知識があいまいだと正答を導けませんでした。
次に通過率が低かったのは大問4の問4でした。これは三民主義を唱えた孫文の名と、中華民国の首都とその位置を問う問題でした。歴史分野ではここ数年、世界の歴史を扱った問題が出題されるようになりました。日本の歴史と関連させながら、世界の歴史を理解することが大切になってきました。
例年三分野からほぼ均等に出題されますが、今年度は出題範囲縮小の影響から、公民の配点がやや少なくなり、その分地理や歴史の配点が増える可能性があります。その意味からも歴史分野の強化が求められます。
理科の平均点は前年の42.3点からかなり上がり、50.3点でした。
問題は地学、生物、化学、物理の各分野からほぼ均等に出されますが、その年度に出題される単元によって平均点が上下するようです。どの単元から出されてもいいように、苦手単元がある人は本番までに強化しておきましょう。
大問1は四分野からの基礎的な問題ですが、配点が従来の20点から24点に引き上げられました。基礎基本重視の現れと見ることができます。
大問1では8問中4問が通過率70%を超えていました。通過率50%以下は2問しかありません。ここで確実に点数を積み上げないと高得点が期待できません。
大問2は地学分野ですが2020年度は「気象とその変化」からの出題でした。通過率50%以上だったのは6問中1問しかありませんでした。
大問3は生物分野ですが「植物の生活と種類」から出題され、6問中5問で通過率が70%を超えていました。
大問4は化学分野ですが「化学変化とイオン」からの出題で、5問中4問が通過率50%以下でした。
大問5は物理分野ですが「身近な物理現象」からの出題で、5問中3問が通過率30%以下であり、そのうち1問は通過率9.7%でした。
高得点を目指すには化学分野・物理分野の強化が必要です。
学力検査問題の平均点は前年の47.1点からやや上がり51.2点でした。
配点が28点と高い大問1(放送を聞いて答える問題)ですが、通過率80%以上が2問あるものの、11問中5問は通過率50%以下であり、あなどれない問題となっています。特に、英語で答える問題の出来が悪く、無答率も高くなっています。
大問3と大問4は長文読解問題ですが、通過率50%以下が大問3では6問中3問、大問4では8問中3問あります。
英語の試験では50分のうち冒頭の約10分が放送を聞いて答える問題にあてられるため、残り40分弱でこれら長文問題に臨まなければなりません。一言一句日本語に訳していくような仕方ではとうてい時間が足りませんから、要点を的確にとらえる読み方を練習しておく必要があります。
英作文では、スペルのミスや、基本的文法事項の誤りも多いことが県発表の資料でも指摘されています。日頃から小さなミスも見逃さないという心構えで学習する必要があります。
学校選択問題の平均点は前年の64.3点からやや下がり58.9点でした。
大問1では通過率90%以上が5問、80%以上が4問あるなど、学校選択問題受験者にとっては易しかったことがうかがえます。逆に言えば、絶対に落とせない問題ということでもあります。
学校選択問題の英作文では、これまでAI(人口知能)、情報リテラシー、環境問題(2020年度)など社会性の高いテーマが取り上げられています。
(教育ジャーナリスト 梅野弘之)