
■武南高校ダンス部を訪ねました
最寄駅が京浜東北線「西川口駅」ということもあり、川口市の学校と思っている人もいるようですが同校は蕨市にあります。蕨市自体は全国でも小さな市ですが、県内最大都市のさいたま市と、人口約60万人の川口市に挟まれた地域にあり、広い範囲から生徒が通っています。
部活動ではサッカー部が全国的にも有名ですが、水泳部や陸上部なども全国レベルで活躍しています。そして、もうひとつ忘れてはならない全国級の部活動がダンス部です。
■全国優勝を重ねる強豪
高校ダンスにはさまざまな全国大会があります。
その中でも武南高校の実績は目を引きます。
全国高等学校ダンス部選手権(DCC)では8年連続全国大会に出場し、第12回大会では「和勢」で優勝し文部科学大臣賞を受賞。
全日本高等学校チームダンス選手権でも大編成部門で優勝し、小編成部門と合わせた総合優勝で文部科学大臣賞を受賞しています。
ほかにも日本高校ダンス部選手権「DANCE STADIUM」や全日本高校ストリートダンスクライマックスなど、数々の全国大会で上位に進出しています。
これだけの実績を並べると、専門の指導者が徹底的に技術を教え込み、全国優勝だけを目指して厳しい練習を繰り返している部を想像するかもしれません。
ところが、実際はかなり違います。
■「ゼロから1」は生徒が作る
顧問の宮谷和輝先生は国語科の先生で、もともとはバレーボールをしていました。ダンス経験はありません。
その宮谷先生が目指しているのは、「子どもたちが中心に考えられる組織」です。
練習メニューや練習日程をはじめ、使用する曲や振り付け、作品のジャンルまで、基本的には生徒たちが考えます。
大会に出場するか、イベントを中心に活動するかという大きな方向性も、部員たちが話し合います。
顧問が完成した作品を用意して、「これを踊りなさい」と指導するわけではありません。
宮谷先生は「ゼロから1は子どもたちが必ずやる」と言います。
生徒が生み出した作品に対し、「こう見せた方が審査員に伝わるのではないか」といったアドバイスを加えることはありますが、あくまでも出発点は生徒です。
意見が食い違った時も、まずは部員同士で話し合います。幹部を決める際にも生徒の投票や上級生の意見が反映されます。
つまり、ダンスを踊るだけでなく、部活動そのものを生徒たちが運営しているのです。
■勝利至上主義ではない強豪
さらに興味深いのは、全国優勝を重ねる強豪でありながら、「何が何でも勝て」とは言わないことです。
同部ホームページにも「勝ち負けだけにこだわるのではなく、自分たちが決めた目標に向けて、最高のパフォーマンスを発揮する」と記されています。
宮谷先生も、勝敗よりそこへ向かう過程を大切にしています。1年生の段階から、自分たちは大会で勝つことを中心にしたいのか、それともイベントなどを通じてダンスの楽しさを広めたいのかを話し合わせることもあるそうです。
もちろん大会に出る以上は勝利を目指します。しかし、「勝つこと」が活動の出発点ではありません。
■自分たちだから生まれるエネルギー
では、なぜそんなチームが全国トップになれるのでしょう。
宮谷先生は、強い代には共通点があると言います。
自分たちが踊っているダンスが好きで、この部活が好きで、そこに自分たちの力をかけて大会に臨みたいという気持ちが強いことです。
他校の指導者などからも、武南の選手には元気の良さや、はつらつとした雰囲気があると言われるそうです。
「自分たちでやっているからこそ出てくるエネルギーがあるのではないか」と宮谷先生は分析します。
部のスローガンのひとつは「楽しいを叶えよう!」。
楽しいから本気になれる。本気になるから工夫する。工夫するから上達する。その積み重ねの先に全国優勝があるのでしょう。
■自分の好きなダンスができる
主将のIさん(新座市立第二中出身)は、小学校5年生から外部のスタジオでダンスを習い、中学校では陸上部で走り幅跳びに取り組んでいました。
高校選びでは他校も検討しましたが、近所の先輩が武南ダンス部で楽しそうに活動していたことや、テレビ番組などへの出演を見たことがきっかけとなりました。
そして、「自分たちで作っていく」という活動スタイルに魅力を感じて武南を選びました。
Iさんが部の魅力のひとつとして挙げるのは、ジャンルが固定されていないことです。
「自分の好きな踊りや作品を作れる機会がたくさんある」と話します。同じ武南高校ダンス部でも、その代によって作品のカラーが変わります。
それこそが、生徒主体で活動する部ならではの面白さです。
■初心者にも開かれた全国級の部活
全国レベルの強豪と聞くと、「経験者しか入れないのでは」と考える人もいるかもしれません。
しかし、高校入学時にダンス未経験だった部員も少なくありません。ホームページでも初心者を歓迎しています。
また、女子だけでなく男子部員も活躍し、ブレイクチーム「“WARA”B-BOYZ」と女子チーム「Venus」などに分かれて大会に出場しています。
大会だけでなく、地域イベントや学校行事、テレビ番組などにも幅広く出演しています。こうした機会も、生徒たち自身の世界を広げています。
勝つために自由や楽しさを封印するのではない。自分たちで考え、自分たちで作り、本気で楽しむ。その結果として全国の頂点に立つ。
「強いから楽しい」のではなく、「楽しいから強くなる」。
武南高校ダンス部は、そんな部活動のあり方を見せてくれる全国屈指のチームです。

(よみうり進学メディア編集部)
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