よみうり進学メディア

特選記事
2022.11.20

特別寄稿「私立高合格を確保してから、公立高にチャレンジしよう」大学通信情報編集部 大野香代子先生

併願する私立高は多めに受けよう

高校入試では、全国的に公立高が人気です。その大きな理由は学費が安いこと。受験生や保護者の中には「公立高に進学するのだから私立高は受けなくてもいい」という考えもあるようです。「私立はお金がかかるから、とても進学させられない」と、最初から私立高を受験しないどころか、検討すらしない場合もあります。しかし、本当にそれでいいのでしょうか。
高校等への進学率は98・9%に達しています。ほとんどの人が中学を卒業すると進学します。それだけに、高校入試は不合格になってはいけない試験という重圧がかかります。しかも埼玉県の公立高の受検チャンスは1回しかありません。その重圧から、公立高受験は実力よりワンランク、ツーランク下げ、安全で確実に合格を目指す作戦をとらざるを得ません。それは同時に、受験生の可能性を狭めていることにはならないでしょうか。
公私の学費の差ですが、実は就学支援金によって、公立高だけでなく私立高でも、同じ金額だけ値下がりしています。埼玉県の私立高の授業料平均は年額38万7000円です。そこから国の就学支援金の年額11万8800円を引いて換算すると、授業料は月額2万2350円になります。もちろん、これ以外に施設設備費などの負担は必要になりますが、授業料自体はかなり減額されています。

「入れる高校選び」から「入りたい高校選び」へ

それだけではありません。埼玉県では私立高進学者への独自の補助制度を設けており、年間の保護者の負担はさらに小さくなっています。この制度は「埼玉県私立高等学校等父母負担軽減事業補助(県内居住生)」と言われるものです。私立高に進学して学びたいのに、経済的な理由であきらめないようにという配慮から設けられました。
年収609万円未満の世帯では、就学支援金に埼玉県独自の補助を併せると、合計で年間38万7000円の補助金が支給されます。これで授業料のほぼ全額を賄えることになります。
この枠が令和2年度からさらに拡大し、年収720万円未満の世帯にも独自の補助を行うことになりましたので、実質無償化が実現しています。
また年収609万円未満の世帯には、入学金について10万円が補助されます。さらに年収約500万円未満の世帯には、施設費その他の納付金補助として、施設費等の平均額である20万円が支給され、学納金のほぼ全額が賄えます。

これが埼玉県の手厚い支援制度なのです。これを活用しない手はありません。さらにコロナ禍で家計が急変した家庭を補助する制度も設けています。これ以外にも、私立高での入試で優秀な成績だった受験生を対象とした特待生制度や奨学金制度を設けている高校もあります。
こうした制度を活用しながら、学費の捻出に目途を立ててみてはどうでしょうか。制度の活用は、やはり保護者がしっかりと調べておきたいところです。高校進学は子どもの一生に関わることです。利用できる制度はどんどん利用し、進学先の多様性を確保したいものです。私立高進学が可能になると、受験のバリエーションが広がります。
たとえば、経済的な面から、意中の私立高に進学することをあきらめていたのが可能になります。私立高を押さえとして受験することもできます。実力がありながら経済的な理由で公立高しか選択肢がなく、公立1校受験であるため志望を下げたとします。その時にも、落ちることができない重圧がかかります。しかし、私立高の合格をあらかじめ手に入れておくと、楽な気持ちで入試にのぞめ、好結果につながることもあります。そのうえ、実力相応校やランクを下げて受験する必要がなくなり、逆にランクが上の高校に、思い切ってチャレンジすることも可能になります。第一志望校をあきらめずに済むことになります。これまでの「入れる高校選び」から、「入りたい高校選び」に変えていきましょう。

バラエティに富む私立高をどう選んでいくか

私立高入試は来年の1月22日から始まります。私立高入試は公立高の入試とは異なり、各校独自に何回も実施されるのが普通です。しかも、特進、進学などコース別に募集しているところがほとんどです。一方、公立高の学力検査は2月22日です。
私立高の合格を確保しておけば、1か月間、落ち着いて公立高入試対策に打ち込むことができます。また、私立高によっては公立高の結果がわかるまで、入学金などの納付を待ってくれるところもたくさんあります。そうなれば、よりいっそう心に余裕をもって、公立高入試にのぞむことができます。
では、数多くある私立高の中から、自分に合った学校をどう選んでいけばいいのでしょうか。最近の私立高は、人気アップとともに難化傾向にあります。入りたいと思うレベルの高い私立高を受験するのか、安全な受験にするのか、複数校受験するのか、以前にもまして私立高選びが難しくなってきています。
私立高の人気がアップしている理由はたくさんあります。そのひとつが、さまざまな教育を行う学校があることです。進学、部活動、学校行事などに力を入れている学校、文武両道の学校、大学の付属校など、バラエティに富む個性的な学校がたくさんあります。さらに、最近ではグローバル化社会到来にあわせ、どこの私立高でも英語の習得に力を注ぐことはもちろんのこと、世界で活躍できるグローバル人材育成のための教育に積極的に取り組んでいます。ネイティブ教員がいるだけでなく、修学旅行や海外でのフィールドワーク、長期休暇中の海外研修を実施している私立高が増えています。長期留学しても3年で卒業できる学校もあり、帰国子女の受け入れにも力を入れています。昨年まではコロナ禍で留学も思うようにできませんでしたが、今年は復活している学校も多くあります。文科省も近年、グローバル人材育成に取り組んでいますが、私立高では以前から実施してきたことです。

2022年度からの学習指導要領の改訂にも対応

それ以外にも、私立高人気の理由はたくさんあります。そのひとつが22年の高校入学者からカリキュラムが変わったことです。ほぼ10年に一度行われる学習指導要領の改訂により「公共」「歴史総合」「情報」など、新科目が加わります。大学入試では、このような改定後の内容で試験を受けることになります。こうしたときに高い実績を残すのが私立高です。新しい学びを早くから研究し、対策をとっているからです。
大学合格実績が伸びていることも人気の理由です。昨年度の4年制大学進学率は過去最高の54・9%です。希望する大学、学部に進学できることは、高校選びの重要なポイントです。
大学合格実績のこの10年を見ますと、埼玉の高校全体で確実に合格者は増えています。私立高について2012年と2022年を比べてみましょう。旧7帝大(北海道、東北、東京、名古屋、京都、大阪、九州)の合格者合計は130人から148人に増加。国公立大医学部医学科は合計で38人から45人に伸びています。
これだけ私立高が伸びているのは、生徒の学力を伸ばす工夫されたカリキュラム、教職員の熱意ある指導にあります。親身になって生徒や保護者の相談に乗る、面談を繰り返す、きめ細かい進路指導によるところが大きいと見られます。
また、勉強だけでは大学合格実績が伸びないこともよく知られています。部活動や学校行事など、バランスをとりながら力を入れている学校が実績を伸ばしています。
魅力あふれる私立高を選択するのであれば、これから開催される各校の説明会、オープンスクール、個別相談会を上手に活用したいものです。コロナ禍の状況ではありますが、各校は対策を取りながら、オンラインなども活用し開催しています。
なかでも個別相談会では、自分の成績を志望する私立高に持って行き、合格の可能性があるのかどうか、直接学校と相談することができます。親身になって相談に乗ってくれます。
高校は、偏差値や大学合格実績だけで選ぶのではなく、各校の特徴、教育方針をしっかり把握したうえで、自分にあった受験校を決めましょう。そして、まずは私立高合格を勝ち取ってほしいと思います。

(大学通信情報編集部 大野香代子先生)

 

関連記事